中村佳菜子さんのうつわは、手に取った瞬間から暮らしの風景へやさしく溶け込んでいきます。思わずクスリとしてしまう遊び心溢れる作品は、日常にあたたかなきらめきをもたらしてくれそうです。

中村さんの陶芸作家への転機は、思いがけないほどささやかなものでした。高校時代の友人から聞いた「陶芸教室に通っている」という近況報告。それならと軽い気持ちで体験した陶芸で、中村さんは土の感触に一瞬で心を奪われます。形をつくる時間の静けさと高揚感。その日を境に、これまで当たり前だった日常が少しずつ色づき始めます。
陶芸を学ぶための県の支援があるということも後押しとなり、会社に辞表を出す決断をします。体験陶芸から退社、そして新たな道へ踏み出すまで、わずか半年だったそうです。
焼き物の魅力は、「最後まで答えが見えないところにある」と中村さんは言います。どれほど手を尽くしても、窯の扉を開けるその瞬間まで結果はわからない。その緊張感が、今もなお制作への情熱を絶やさずにいさせるのだそう。
だからこそ、完成形を急がず、失敗さえも次へとつなげていく。そうして積み重ねてきた時間が、器に静かな深まりを与えています。
SNSや日々の暮らしの中で目にする、誰かの自由な器使い。そこからヒントを得て、「こんな使い方なら、こうしたほうがいいかもしれない」と考え、かたちへと反映していきます。制作の軸にあるのは、「使う人より、半歩だけ先をいく器」であること。日常から離れすぎることはないけれど、使うたびにほんの少し特別な気分になれる存在でありたい...そんな想いが込められています。
「いろいろな作り手さんがいると思いますが、私は常にお客様を見て、作ることを決めています。」と中村さん。自己表現や技巧を前に出すのではなく、いつも思い描くのは使い手が過ごす時間。その誠実さが、器に宿るやさしさにつながっているのだと感じます。
お客様がよくスイーツをのせて使ってくれているところから、スイーツシリーズを作り始めたという中村さん。スイーツやフルーツのモチーフや絵柄は、驚くほどリアルです!

制作中も一人で美味しそう!と味を妄想しながら作って
イッチンの絵付け(スポイトのような用具を用い化粧土を絞り出して装飾する技法)は、白泥で描いた後に素焼きをし、彩色から本焼きを経て完成します。

グラデーションの釉調が、おいしそうな感じをより引き立てています。

「この器に何をのせようかしら」そんな問いかけさえ楽しい時間になる。いつものおやつが小さなご褒美に変わり、何気ない食卓が少しだけ華やぐ。飾るためではなく、使われるために生まれた器は、日々の何気ない暮しに安らぎと彩りを添えてくれそうです。
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